多くの中国籍の方が日本に居住していて日本に財産を持っています。また、中国から日本に投資して日本に不動産などの財産を持っている方もいらっしゃいます。そういった方が亡くなると相続が開始し、日本の財産について相続手続きが必要になります。
中国籍の方が亡くなると、相続にはどの国の法律が適用になり、どのような書類を揃えれば手続きが進められるかが問題になります。
この記事では中国籍の方の相続に関する法律や相続手続きについて説明します。
中国籍の方が亡くなった場合の相続の準拠法
日本の法律である「法の適用に関する通則法」には、「相続は、被相続人の本国法による」と規定されていて、相続に関しては亡くなった人の国籍国の法律が適用されることになり、相続は中国法によることになります。
ただし、中国の法律で、相続は日本の法律によるとされている場合には、相続は日本の法律に従うことになります。例えば、相続は財産の所在地の法律によるとされていて日本に財産がある場合や、被相続人の常居所地法によるとされていて被相続人の常居所地が日本であった場合のように、相手国の法律では日本法によることになる場合になどです。このように適用される法律が相手国から日本に戻ってくることを反致といいます。
中国籍の方が亡くなった場合、遺言の有無で相続の準拠法も異なることになります。それは遺言の有無で反致の適用が異なるからです。
この点、いくつかのサイトを見ましたが、遺言の有無で準拠法を書き分けているサイトは少ないようです。
遺言がない場合の準拠法
相続の準拠法
中国の法律では、法定相続については、不動産については不動産が所在する国の法律、不動産以外の財産については、常居所(ざっくりいうと実際に住んでいるところ)の法律を適用すると規定されています。ここでいう法定相続とは、遺言が無い場合や、遺言があっても遺言に書かれていない財産があるときのその財産に関する相続などのことです。
例えば、日本の財産の相続で考えてみましょう。日本に不動産がある場合、不動産の相続については、中国法では不動産所在地である日本の法律によるとされているので、上で説明した反致により日本の相続に関する法律が適用されます。また、不動産以外の財産については、その方の常居所地の法律が適用になるので、日本に住んでいる方の相続については、これも反致により日本の法律が適用になります。それ以外の場合は、反致しないので中国法が適用になります。
これをまとめると次の表のようになります。
日本在住 | 日本国外在住 | |
---|---|---|
日本の不動産 | 日本法 | 日本法 |
日本の動産 | 日本法 | 中国法※ |
※例えば中国籍の方がアメリカに住んでいる場合には、常居所地のアメリカの法律になるのではないかと思わえるかもしれませんが、この場合は中国法が適用になります。日本は転致を認めていないからです。
家族関係の準拠法(先決問題)
相続に日本法が適用になっても、相続関係の前提になる夫婦、親子の関係が成立しているかについては、相続の準拠法とは別の検討が必要です。婚姻の成立や親子関係の成立にはそれぞれ準拠法を決定して、その関係が成立しているかを検討しなければなりません。これを先決問題といいます。
ただし、婚姻や実の親子関係が問題になるケースはそれほどないでしょう。中国で問題になるのは、養子と継子の場合です。
養子について
日本の通則法では、養子縁組は養親の本国法によるとされています。一方中国法では、養子縁組の要件と手続きは養親と養子の常居所地法により、養子縁組の効力は養子縁組成立時の養親と養子の常居所地法によるとされています。つまり、養子縁組については、中国籍の方が養親になる養子縁組において、養親と養子の常居所地が日本であれば、反致して日本法が準拠法になりますが、そうでなければ中国法が適用になります。
養子縁組に中国法が適用になる場合、養子縁組が成立すると養子と実親の間の親子関係は消滅します。つまり、この場合、養子に子に出た子は実親の相続人ではなくなります。この点が日本の普通養子とは異なります。
継子について
継子とは、配偶者の連れ子のことです。継親と継子との間にどのような関係が生じるかですが、日本の通則法では、このような出生以外の事由による嫡出親子関係の成立については、準正に関する規定を類推適用して準拠法を定めると解されていて、父もしくは母または子の本国法によることになります。
準拠法として中国法が適用になる場合、中国法では、継親とその扶養教育を受けた継子との間の権利義務については、中国民法の親子に関する規定を適用するとされています。そして、親子の規定が適用されると、互いに遺産を相続する権利を有する関係になり、相続人になります。
日本法では継親子間では、養子縁組がない限り法定相続人にはならず相続関係は生じません。しかし、例え相続の準拠法が日本法であっても、中国籍の方の相続では継親子間に相続関係が生じる可能性があります。
遺言がある場合の準拠法
遺言の効力の準拠法
結論を先にいうと、遺言がある場合、相続には中国法が適用されます。
中国の法律で、「遺言の効力については、遺言者の遺言作成時または死亡時の常居所地法または国籍国法を適用する。」と規定されています。常居所地が日本にあると、日本法または中国法を適用することになるので、日本法でもいいように思うかもしれません。しかし、日本は、このように選択的に準拠法が指定されていて、確定的に日本法を指定していない場合には、反致を認めません。したがって、遺言の効力については反致を認めない結果、中国法が適用になります。
ところで、「遺言の効力」に何を含むかですが、これには遺言の有効性だけでなく、遺言により実現しようとしている遺贈や相続の内容も含むという見解が中国での判例、多数説です。
結果として、遺言がある場合には、相続に関する事柄については、中国法が適用されます。
遺言の方式の準拠法
遺言の方式は、「遺言の方式の準拠法に関する法律」によります。
遺言の方式は、次のどれかに該当すれば有効な遺言になります。
- 行為地法
- 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
- 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
- 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
- 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法
例えば、日本に居住している中国籍の方が日本の方式で遺言を作成すれば、それは有効な遺言になります。また、外国に居住している方でも、来日して日本の公証役場で遺言を作成した場合、それも有効な遺言として認められます。
相続に中国法が適用される場合の相続関係
法定相続人の範囲
日本と中国の法定相続人の範囲をわかりやすく表にすると次のようになります。
中国法 | 日本法 | |
---|---|---|
第一順位 | 配偶者 子 父母 | 子 配偶者 |
第二順位 | 兄弟姉妹 父方の祖父母 母方の祖父母 | 直系尊属 配偶者 |
第三順位 | 兄弟姉妹 配偶者 |
日本では配偶者は常に相続人になります。つまり日本法では配偶者はどの順位の相続人とも共同相続人の関係になりますが、中国では第一順位の相続人とされています。また、中国では被相続人の父母も第一順位の相続人とされているところが日本法との大きな違いです。
その他中国の相続において日本法との相違点
中国では、
- 子には嫡出子、嫡出でない子、養子、扶養関係にある継子を含む
- 父母は、実父母、養父母、扶養関係にある継父母を含む
- 兄弟姉妹には、実父母の兄弟姉妹、養兄弟姉妹、扶養関係にある兄弟姉妹を含む
- 妻が亡夫の、夫が亡妻の父母に対して扶養義務を尽くしたときは、第一順位の相続人になる。
代襲相続については、
被相続人の子が被相続人より先に死亡している場合は、被相続人の直系卑属が代襲相続人になる。被相続人の兄弟姉妹が被相続人より先に死亡している場合は、兄弟姉妹の子が代襲相続人になる。
相続分については、同一順位の共同相続人間の相続分は均等です。
中国籍の方の相続手続きの戸籍に代わるもの
中国には日本と同じような戸籍制度はありません。ですから、相続関係を他の書類で証明しなければなりません。
以前は、日本国内では華僑総会を通じて領事館に親族関係の公証書を申請し、それで相続関係の資料としていました。しかし、今では日本国内で親族関係公証書を申請することはできなくなっています。また、中国国内に相続人や親族の方がいる場合でしたら、中国国内の公証処で親族関係の公証書を作成してもらう可能性もあります。ただし、これも必ずできるわけではありません。
それでは公証書がない場合はどうすればいいでしょうか?相続手続きはできないでしょうか?
親族関係公証書ができない場合、まずは揃えられるだけ身分関係を証明できる書類を揃えます。例えば、閉鎖された外国人登録原票の写し、出生証明書、死亡証明書、婚姻証明書などです。これらの書類で、被相続人と相続人の間の身分関係、つまり相続人であることを証明して相続手続きを進めます。
中国籍の方の相続手続きのサポート内容
- 相続に必要な書類の取り寄せ
- 相続に必要な書類の作成
- 日本にある不動産の相続登記申請
- 預貯金の解約・名義変更
- その他日本国内の財産の相続手続き