国際相続

中国籍の方の相続 - 適用になる法律や手続きを解説

7月 26, 2024

多くの中国籍の方が日本に居住し、日本に財産を所有しています。また、中国から日本に投資して不動産などの資産を保有している方も少なくありません。このような方々が亡くなった場合、相続が開始され、日本にある財産について相続手続きが必要となります。

中国籍の方が死亡した際、相続にはどの国の法律が適用されるのか、また、どのような書類を準備すれば手続きを進められるのかが重要な問題となります。

この記事では、中国籍の方の相続に関する法律や相続手続きについて詳しく解説します。日本と中国の法制度の違いや、国際私法の観点から見た相続の準拠法の決定方法、必要書類の準備など、実務的な側面にも触れながら、分かりやすく説明していきます。

相続問題は複雑で、特に国際的な要素が絡む場合はさらに難しくなります。このガイドを通じて、中国籍の方の相続に関する基本的な知識を得ていただき、円滑な相続手続きの一助となれば幸いです。

中国籍の方が亡くなった場合の相続の準拠法

日本の法律である「法の適用に関する通則法」には、「相続は、被相続人の本国法による」と規定されています。これにより、相続に関しては亡くなった人の国籍国の法律が適用されることになり、中国籍の方の相続は中国法によることになります。

ただし、中国の法律で、相続は日本の法律によるとされている場合には、相続は日本の法律に従うことになります。例えば、相続は財産の所在地の法律によるとされていて日本に財産がある場合や、被相続人の常居所地法によるとされていて被相続人の常居所地が日本であった場合のように、相手国の法律では日本法によることになる場合などです。このように適用される法律が相手国から日本に戻ってくることを反致といいます。

中国籍の方が亡くなった場合、遺言の有無で相続の準拠法も異なることになります。 それは遺言の有無で反致の適用が異なるためです。この点については、多くのウェブサイトでは詳しく説明されていませんが、実際の相続手続きにおいては重要な要素となります。

相続の準拠法を正確に把握することは、相続手続きを円滑に進める上で非常に重要です。特に国際的な要素を含む相続の場合、適用される法律によって相続人の範囲や相続分が大きく異なる可能性があるため、専門家のアドバイスを受けることが望ましいでしょう。

遺言がない場合の準拠法

中国籍の方が遺言を残さずに亡くなった場合、相続の準拠法を決定するには複雑な法的考慮が必要となります。日本の「法の適用に関する通則法」によれば、相続は原則として被相続人の本国法、つまり中国法に従うことになります。しかし、実際の適用はそれほど単純ではありません。

中国の法律では、法定相続に関して、不動産については不動産所在地の法律を、その他の財産については被相続人の常居所地の法律を適用すると規定しています。この規定により、日本にある財産の相続については、反致(はんち)という法理によって、結果的に日本法が適用される可能性が高くなります。

反致とは、ある国の法律が他国の法律を指定し、その指定された他国の法律がさらに元の国の法律を指定する場合に、元の国の法律を適用するという考え方です。つまり、中国法が日本法を指定し、それによって日本法が適用されるという流れになります。

この法的枠組みの中で、相続の準拠法を正確に決定するには、被相続人の居住地や財産の所在地など、具体的な状況を慎重に検討する必要があります。また、相続に関連する家族関係の法的認定(婚姻関係や親子関係など)についても、別途準拠法を決定しなければならない場合があります。

相続の準拠法

中国の法律では、法定相続については、不動産については不動産が所在する国の法律、不動産以外の財産については、常居所(ざっくりいうと実際に住んでいるところ)の法律を適用すると規定されています。ここでいう法定相続とは、遺言が無い場合や、遺言があっても遺言に書かれていない財産があるときのその財産に関する相続などのことです。

例えば、日本の財産の相続で考えてみましょう。日本に不動産がある場合、不動産の相続については、中国法では不動産所在地である日本の法律によるとされているので、上で説明した反致により日本の相続に関する法律が適用されます。また、不動産以外の財産については、その方の常居所地の法律が適用になるので、日本に住んでいる方の相続については、これも反致により日本の法律が適用になります。それ以外の場合は、反致しないので中国法が適用になります。

これをまとめると次の表のようになります。

日本在住日本国外在住
日本の不動産日本法日本法
日本の動産日本法中国法※

※例えば中国籍の方がアメリカに住んでいる場合には、常居所地のアメリカの法律になるのではないかと思わえるかもしれませんが、この場合は中国法が適用になります。日本は転致を認めていないからです。

家族関係の準拠法(先決問題)

相続に日本法が適用になっても、相続関係の前提になる家族関係が成立しているかについては、別途検討が必要です。婚姻の成立や親子関係の成立については、相続の準拠法とは異なる法律により判断されます。それぞれの関係について、適用される法律(準拠法)を決定し、その法律に基づいてその関係が成立しているかを検討しなければなりません。このような相続の前提となる問題を先決問題と呼びます。

ただし、一般的に婚姻や実の親子関係が問題になるケースはそれほど多くありません。中国籍の方の相続で特に注意が必要なのは、養子と継子の場合です。これらのケースでは、日本法と中国法で取り扱いが異なる可能性があるため、準拠法の決定が重要になります。

養子について

日本の通則法では、養子縁組は養親の本国法によるとされています。一方中国法では、養子縁組の要件と手続きは養親と養子の常居所地法により、養子縁組の効力は養子縁組成立時の養親と養子の常居所地法によるとされています。つまり、養子縁組については、中国籍の方が養親になる養子縁組において、養親と養子の常居所地が日本であれば、反致して日本法が準拠法になりますが、そうでなければ中国法が適用になります。

養子縁組に中国法が適用になる場合、養子縁組が成立すると養子と実親の間の親子関係は消滅します。つまり、この場合、養子に出た子は実親の相続人ではなくなります。この点が日本の普通養子とは異なります。

中国法が適用される養子縁組では、養子と養親の間に新たな親子関係が形成されるだけでなく、養子の実親との法的な関係が完全に断絶されることになります。これは相続権にも大きな影響を与え、養子は養親の相続人となる一方で、実親の相続人としての地位を失うことになります。

継子について

継子とは、配偶者の連れ子のことを指します。継親と継子との間にどのような関係が生じるかについては、日本の通則法では、出生以外の事由による嫡出親子関係の成立に関する規定を類推適用して準拠法を定めると解されています。具体的には、父もしくは母または子の本国法によることになります。

準拠法として中国法が適用される場合、中国法では、継親とその扶養教育を受けた継子との間の権利義務については、中国民法の親子に関する規定を適用するとされています。この結果、親子の規定が適用されると、互いに遺産を相続する権利を有する関係になり、継子は相続人としての地位を得ることになります。

一方、日本法では継親子間では、養子縁組がない限り法定相続人にはならず相続関係は生じません。しかしながら、例え相続の準拠法が日本法であっても、中国籍の方の相続においては継親子間に相続関係が生じる可能性があることに注意が必要です。このような法律の違いは、国際的な相続案件において重要な考慮事項となります。

遺言がある場合の準拠法

中国籍の方が遺言を残している場合、相続の準拠法は遺言の有無によって異なります。遺言がある場合、相続に関する事項は中国法が適用されることになります。これは、中国の法律で遺言の効力について規定されているためです。遺言の効力には、遺言の有効性だけでなく、遺言により実現しようとしている遺贈や相続の内容も含まれるというのが中国での判例や多数説の見解です。したがって、遺言がある場合には、相続に関するすべての事柄について中国法が適用されることになります。

しかし、遺言の方式については別の法律が適用されます。遺言の方式は「遺言の方式の準拠法に関する法律」に基づいて判断されます。この法律によれば、遺言の方式が有効とされる条件がいくつか定められています。例えば、遺言が作成された場所の法律に従っている場合や、遺言者の国籍国の法律に従っている場合などです。これにより、日本に居住している中国籍の方が日本の方式で遺言を作成した場合でも、その遺言は有効なものとして認められることになります。

遺言の効力の準拠法

遺言がある場合、相続については中国法が適用される結論となります。

中国の法律では、「遺言の効力については、遺言者の遺言作成時または死亡時の常居所地法または国籍国法を適用する。」と規定されています。この規定により、常居所地が日本にある場合、一見すると日本法または中国法のいずれかを適用できるように思われるかもしれません。

しかしながら、日本の法体系では、このように選択的に準拠法が指定されていて、確定的に日本法を指定していない場合には、反致を認めないという原則があります。つまり、日本の法律の観点からは中国法が指定されたと解釈されることになります。

この結果、遺言の効力については反致が認められず、中国法が適用されることになります。

ここで重要なのは、「遺言の効力」という概念の範囲です。中国の判例や多数説によれば、この「遺言の効力」には単に遺言書自体の有効性だけでなく、遺言により実現しようとしている遺贈や相続の内容も含まれるとされています。

したがって、遺言がある場合には、相続に関するあらゆる事項について、中国法が適用されることになります。 この点は、国際相続において非常に重要な要素となるため、注意が必要です。

遺言の方式の準拠法

遺言の方式に関する準拠法は、「遺言の方式の準拠法に関する法律」によって定められています。この法律に基づき、遺言の方式が有効と認められるためには、以下のいずれかの法律に適合している必要があります。

  1. 行為地法
  2. 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
  3. 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
  4. 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
  5. 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

これらの規定により、例えば日本に居住している中国籍の方が日本の方式に則って遺言を作成した場合、その遺言は有効なものとして認められます。また、外国に居住している中国籍の方であっても、日本を訪れて日本の公証役場で遺言を作成した場合、その遺言も有効なものとして扱われます。

このように、遺言の方式については、複数の法律の中から有効性を認める可能性が広く設けられており、国際的な遺言の有効性を担保する仕組みが整えられています。

相続に中国法が適用される場合の相続関係

中国法が相続に適用される場合、日本の相続法とは異なる点がいくつか存在します。これらの相違点を理解することは、中国籍の方の相続手続きを円滑に進める上で重要です。

中国の相続法では、法定相続人の範囲や順位、相続分の決定方法などが日本とは異なる規定となっています。例えば、中国では配偶者が第一順位の相続人として位置づけられており、被相続人の父母も同じく第一順位の相続人とされています。これは日本の相続法とは大きく異なる特徴の一つです。

また、中国の相続法では、子供の定義に嫡出子や嫡出でない子、養子に加えて扶養関係にある継子も含まれるなど、家族関係の捉え方にも違いがあります。さらに、代襲相続の規定や相続分の決定方法などにおいても、日本法とは異なる点があります。

これらの相違点を十分に理解し、適切に対応することが、中国籍の方の相続手続きを正確かつ効果的に進める上で不可欠となります。

法定相続人の範囲

日本と中国の法定相続人の範囲には、いくつかの重要な違いがあります。以下の表で、両国の法定相続人の範囲を比較して示します。

中国法日本法
第一順位配偶者

父母

配偶者
第二順位兄弟姉妹
父方の祖父母
母方の祖父母
直系尊属
配偶者
第三順位兄弟姉妹
配偶者

日本の相続法では、配偶者が常に相続人となる点が特徴的です。つまり、日本法では配偶者はどの順位の相続人とも共同相続人の関係になります。一方、中国の相続法では、配偶者は第一順位の相続人として位置づけられています。

また、中国の相続法におけるもう一つの大きな特徴は、被相続人の父母も第一順位の相続人として扱われている点です。これは日本法とは異なる重要な相違点といえます。

このような法定相続人の範囲の違いは、実際の相続手続きや遺産分割において大きな影響を与える可能性があります。そのため、中国籍の方の相続に関わる場合は、これらの相違点を十分に理解し、適切な対応を取ることが重要です。

その他中国の相続において日本法との相違点

中国では、

  • 子には嫡出子、嫡出でない子、養子、扶養関係にある継子を含む
  • 父母は、実父母、養父母、扶養関係にある継父母を含む
  • 兄弟姉妹には、実父母の兄弟姉妹、養兄弟姉妹、扶養関係にある兄弟姉妹を含む
  • 妻が亡夫の、夫が亡妻の父母に対して扶養義務を尽くしたときは、第一順位の相続人になる。

代襲相続については、
被相続人の子が被相続人より先に死亡している場合は、被相続人の直系卑属が代襲相続人になる。被相続人の兄弟姉妹が被相続人より先に死亡している場合は、兄弟姉妹の子が代襲相続人になる。

相続分については、同一順位の共同相続人間の相続分は均等です

このように、遺言の効力や相続人の権利範囲において、日本と中国では異なる考え方が採用されている点に注意が必要です。

遺留分制度の有無について

日本の相続制度には、遺言の内容に関わらず、配偶者、子、直系尊属などの一定の法定相続人に最低限保障される相続財産の割合として「遺留分」という制度が定められています(民法1042条以下)。遺言によって特定の相続人に多くの財産を遺す場合でも、他の相続人の遺留分を侵害することは原則としてできません。

一方、中国の相続法(2021年施行の民法典相続編)には、日本のような画一的な遺留分制度は存在しません これは大きな違いの一つです。したがって、中国法に基づけば、遺言によって特定の相続人や相続人以外の人に全財産を遺贈することも、原則としては可能です。

ただし、中国の法律が相続人の保護を全く考慮していないわけではありません。遺言を作成する際には、労働能力がなく、かつ生活の根拠がない相続人に対しては、必要な遺産の取り分を確保しなければならないと定められています(民法典1141条)。これは、日本の遺留分とは異なりますが、生活困窮状態にある相続人を保護するための規定です。

中国籍の方の相続手続きの戸籍に代わるもの

中国には日本と同じような戸籍制度はありません。ですから、相続関係を他の書類で証明しなければなりません。

以前は、日本国内では華僑総会を通じて領事館に親族関係の公証書を申請し、それを相続関係の資料としていました。しかし、今では日本国内で親族関係公証書を申請することはできなくなっています。また、中国国内に相続人や親族の方がいる場合でしたら、中国国内の公証処で親族関係の公証書を作成してもらう可能性もあります。ただし、これも必ずできるわけではありません。

それでは公証書がない場合はどうすればいいでしょうか?相続手続きはできないでしょうか?

まずは、入手可能な身分関係を証明できる書類をできる限り揃えることが重要です。例えば、以下のような書類が考えられます:

  • 閉鎖された外国人登録原票の写し
  • 出生証明書
  • 死亡証明書
  • 婚姻証明書

これらの書類を用いて、被相続人と相続人の間の身分関係、つまり相続人であることを証明し、相続手続きを進めていきます。

なお、これらの書類が中国語で記載されている場合は、日本語への翻訳が必要になることがあります。その際は、専門の翻訳業者や、日本語と中国語に精通した専門家に依頼することをお勧めします。

また、相続手続きを進める上で、日本の法務局や金融機関などが追加の書類や証明を求める場合もあります。そのような場合は、各機関の要求に応じて適切に対応することが重要です。

相続手続きは複雑で、特に国際的な要素が絡む場合はさらに難しくなります。必要に応じて、国際相続に詳しい専門家に相談することも検討してください。

中国籍の方の相続手続きのサポート内容

  • 相続に必要な書類の取り寄せ
  • 相続に必要な書類の作成
  • 日本にある不動産の相続登記申請
  • 預貯金の解約・名義変更
  • その他日本国内の財産の相続手続き

中国が関係する相続手続きは、準拠法の判断や必要書類の収集が複雑になるケースが多くあります。具体的な状況に応じた最適な手続きを進めるために、まずはお気軽に当事務所までご相談ください。

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