国際相続

外国人が被相続人の相続手続きはどの国の法律が適用されどんな書類を揃えるか

8月 6, 2023

多くの外国人の方が日本に居住し、日本に不動産や銀行口座などの資産を保有しています。このような外国人の方が亡くなると、不動産の名義変更(相続登記)や銀行口座の相続手続きをしなければならないのは、日本人の方と同じです。

相続人の方がご自身で手続きしようと法務局や金融機関の窓口に行っても、窓口の人も外国人の相続についてよくわかっていなかったり、聞いたこともないような書類を要求されて、どうすればいいのか全く分からなくなってしまうことは珍しくありません。

また、専門家に相談に行っても、被相続人が外国人と聞いただけでできませんと断られてしまい、相談先が見つからないといったこともあります。

外国人の相続手続きでは、日本人の相続とは異なる問題があり、手続きも煩雑です。手続きをする窓口も理解していないこともあり、窓口に対して様々な説明が求められることもあります。専門家に相談することなく相続人の方が個人で手続きを進めるのは大変なことです。

この記事では、これまで多くの外国人の相続手続きをしてきた当事務所が外国人の方が亡くなったときの相続手続きでは何が特に問題なのかについて解説します。

外国人の相続手続きは何が問題になるか

外国人の方の相続でまず問題になるのは、相続にはどの国の法律が適用になるかということです。この相続に適用される法律をを準拠法といいます。

多くの外国人の方が日本で生活されていて、日本の法律の中で生活しているので、相続でも当然に日本法によると思っている外国人の方も少なくありません。しかし、必ずしもそうではありません。

また、外国人の方には戸籍がありません。戸籍がある国の方が珍しく、今では戸籍があるのは日本と台湾位です。韓国は以前は戸籍がありましたが、現在では戸籍制度は廃止されています。

日本人の相続手続きでは戸籍を集めて相続関係を証明しますが、外国人で戸籍が無い国の方については戸籍以外の書類で相続関係を証明する必要があります。

このように、外国人の相続は日本人の相続と同じようには進めることができないために、対応できる専門家が少なく、結果として相談先がなかなか見つからずたらい回しにあってしまうことになります。

外国人の相続手続きにはどの国の法律が適用されるか(準拠法)

外国人の方が亡くなって相続が開始したとき、その方が日本に住んでいた方であっても、日本に財産があったとしても、相続に日本の法律が適用になるとは限りません。

被相続人の本国法

日本の国際私法である法の適用に関する通則法には「相続は、被相続人の本国法による。」と定められています。つまり、相続には、亡くなった被相続人の国籍国の法律が適用されるという意味です。

一見すると簡単そうに思うかもしれませんが、そんなに単純ではありません。

中には重国籍の方もいます。重国籍者で国籍のうちに日本国籍がある方の場合は、日本法が本国法になります。重国籍の国籍に日本国籍が含まれていない場合は、常居所地の国の国籍が重国籍に含まれているときは常居所地国の法が本国法になり、そうでない場合は最も密接に関連する国の法律が本国法になります。

また、国によっては、アメリカのように国の中の地域ごとに法律が異なる国(地域的不統一法国)やマレーシアのように宗教によって異なる法律が適用になる国(人的不統一法国)があり、さらに、中国と台湾、韓国と北朝鮮のような分裂国家もあります。

このように本国法を決定するのにも様々な問題があります。

本国法によれば日本法になる場合(反致)

被相続人の本国法を調べたところ、本国法によれば相続は日本の法律によるとされるときは、相続には日本の法律が適用されます(このように、あちらの国に行ったものが日本に帰ってくることを「反致」といいます。)。

例えば、本国法によると、相続は常居所地の国の法律によるとか財産のある国の法律によるとされているような場合です。このような場合、日本に常居所地がある場合や財産が日本にある場合には、日本に反致され日本法が相続に適用されます。

相続統一主義か相続分割主義か

相続に関して、相続財産の内容に関わらず一つの統一した法律を準拠法として考える相続統一主義の国と財産の内容や財産が存する国によって複数の法律を適用する相続分割主義の国があります。

日本は前者の相続統一主義をとっています。しかし、例えばアメリカやイギリスといった英米法の国では相続分割主義をとっていて、不動産は不動産の所在地の法律、不動産以外の財産は常居所地の法律が適用されます。

相続分割主義をとっている国の方が亡くなると、日本に財産があっても、被相続人の居住地や財産の種類によって適用される法律が異なるといったことも起こりえます。例えば、被相続人が国籍国に居住していた場合、日本の不動産の相続については日本法、預金などその他の財産については被相続人の国籍国の法律によることになります。

このように、外国人の方が亡くなったときの相続手続きでは、外国の法律の調査をしない限り、相続にどの国の法律が適用になるかを決定できません。

遺言の有無による相続手続きの違い

遺言があるときの相続手続き

外国人の方が遺言を残して亡くなったとき、その遺言が日本の相続手続きで使えるかどうかを検討しなければなりません。

遺言の方式

まず遺言の方式が有効かどうかという問題があります。外国の方式で作成されていた場合に、それが日本でも有効と認められるでしょうか?日本では次の方式で作成された遺言は有効とされています。

  1. 行為地法
  2. 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
  3. 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
  4. 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
  5. 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

例えば日本に居住していた外国人の方であれば、日本の方式で自筆証書遺言や公正証書遺言を作成しておけば日本国内では有効になりますし、国籍国の方式で作成された遺言も有効になります。

遺言があるときの相続の準拠法

遺言があっても、遺言の内容である相続・遺贈に関する準拠法は上記のとおり決定していきます。しかし、遺言の有無や遺言の内容によって、相続の準拠法が異なる場合もあります。

例えば韓国は遺言で相続の準拠法を指定できるとされているので、遺言で準拠法を指定した場合は、指定された国の法律が相続に適用されることがあります。また、中国は遺言がない場合の法定相続と、遺言がある場合の相続とで準拠法が異なります。

遺言書の検認

外国人の方が、自筆証書遺言を残して亡くなったときは、遺言書の検認手続きが必要です(ただし、法務局の遺言保管制度を利用している場合を除く)。

また、外国の方式で作成したした遺言でも、被相続人が日本に住所を有していたときは、日本の家庭裁判所に管轄が認められるので検認の申し立てが可能です。当事務所でも、インド国籍の方がインドでインドの方式で作成した遺言について、家庭裁判所に検認の申立てをしたことがあります。

遺言がない場合の相続手続き

外国人の方が遺言を残さずに亡くなったときの相続手続きは、まず上記で述べたように準拠法を特定する必要があります。そのためには外国法も調査しなければなりません。

準拠法が日本法になれば、通常の日本の相続手続きと同じように法定相続人を特定し、遺産分割をして相続手続きを進めることができます。

これに対して準拠法が本国法になるときは、本国法を調査して法定相続人や相続分を確定させて手続きを進めます。日本と相続人の範囲が異なる場合には、手続きの窓口ごとに説明を求められることがありますので、いつでも説明できる資料などを用意しておくとよいでしょう。

相続手続きに必要な書類が用意できないときの手続き

戸籍がない国の相続関係の証明

日本人の相続では戸籍謄本を集めて相続関係を証明します。戸籍謄本によって証明できることは、

  1. 被相続人が亡くなり相続が開始したこと
  2. 被相続人との一定の身分関係にあること(相続人であること)
  3. 他に相続人がいないこと

また、住民票によって相続人の住所が証明できますし、印鑑証明書により遺産分割協議書などの署名押印が本人によるものと証明できます。

しかしながら、ほとんどの国にはこのような証明制度がありません。したがって、他の書類で相続関係を証明しなければなりません。

例えば、死亡証明書で死亡した事実を証明したり、出生証明書で親子関係や兄弟関係を証明したりします。ただし、どのように揃えても、他に相続人がいないことまでは証明できませんので、他に相続人がいないことを記載した書面を作成し公証人の面前で宣誓のうえ署名して、公証人の認証を受けます。

どのような書類を揃えれば良いのかわからず、先に法務局や金融機関に相談すると、実情に合わない一般的な回答や無理な回答をされて、手続きが進まなくなることもあります。まずは、揃えられるものを揃えてから、手続きを進める方が良いでしょう。

住民票がない場合の相続手続き

不動産の名義変更のために相続登記を申請する際は、不動産を相続して名義人になる方の住民票と亡くなった方と現在の登記名義人を関連つけるための被相続人の住民票の除票が必要です。

被相続人や相続人が外国人の方で3か月超の在留資格をもって日本に在留している中長期在留者の方や特別永住者の方の場合は、日本で住民票や除票の交付を受けることができます。

外国に居住してる場合で、日本の住民票に類似する書類がある国は、韓国と台湾くらいだと思います。

その他の国に居住している場合には、日本国籍であれば在外公館で在留証明書を発行してもらうことができます。それ以外の国籍の方は、宣誓供述書を現地の官憲に認証してもらうことで住民票の代わりとします。

また、被相続人の場合は、住民票の除票がなくても登記済証や登記識別情報があれば、それをもって登記手続きをすることができます。

印鑑証明書がない場合の相続手続き

相続登記で遺産分割協議書を添付する場合や金融機関での相続手続きでは、相続人の印鑑証明書の提出が求められます。

これも住民票と同じで、相続人が外国人の方で中長期在留者の方や特別永住者の方であれば、印鑑登録をすれば印鑑証明書の交付を受けられます。しかし、日本に住んでいても外国人の方は必ずしも印鑑を使っているとは限らないので、印鑑がない場合には署名証明書で代替することになります。

また、外国に居住している場合、日本の印鑑証明書に類似する書類を発行してくれる国は韓国と台湾くらいです。従って、それ以外の国に居住してる場合には、印鑑証明書ではなく宣誓供述書の形式で署名証明書とするのが一般的です。

外国に居住している相続人が日本国籍の場合は、在外公館で署名証明書を発行してもらえます。また、日本国籍を離脱した人の場合でも日本の相続手続きに使う場合には、日本領事館で署名証明書を発行してもらえることもあるようですが、このような方の場合には日本領事館まで行かずともお近くの公証人等の認証を受ければ良いのではないかと思います。

なお、不動産登記では、署名証明書は本国官憲(国籍国の認証権限がある公証人等)の認証を受けるのが原則です。

外国人の相続税

外国人の方が亡くなった場合でも、日本の相続税がかかります。ただし、被相続人や相続人の国籍や居住状況などにより、日本以外の財産も含めた全ての財産に課税される場合と日本国内の財産のみに課税される場合とがあります。

当事務所は、国際的な資産税にも詳しい税理士事務所と連携していますので、外国人の相続で相続税が課税される場合には、信頼できる税理士事務所をご紹介できます。

外国人の相続手続きは司法書士国際法務.com運営の司法書士事務所神戸リーガルパートナーズまで

外国人の相続手続きは、国際相続を専門に扱う事務所に相談されることをおすすめします。

外国人の相続は、どこの事務所でも対応できるわけではありません。実際、司法書士事務所神戸リーガルパートナーズには、何十件も問い合わせをしてやっと当事務所に辿り着いた方や、近くの専門家に依頼したもののどのように進めて良いか分からず遅々として手続が進まないといった相談が寄せられています。

国際的な法務を専門に扱っている司法書士事務所神戸リーガルパートナーズは、外国人の相続をはじめとする国際的な相続を多数扱っており、事務所は英語と中国語に対応しています。

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