国際相続

外国籍の被相続人がいる相続手続き|準拠法・必要書類の実務解説

8月 6, 2023

外国籍の方が被相続人となる相続案件では、「どの国の法律が適用されるのか」という準拠法の確認から始まり、戸籍に相当する書類の収集、印鑑証明書・住民票の代替手続きと、通常の相続とは異なる論点が次々と現れます。慣れない案件で手が止まってしまうのは、準備不足ではなく制度の複雑さが原因です。

このページでは、法の適用に関する通則法36条をもとにした準拠法の決まり方、反致・相続統一主義と分割主義といった実務上押さえておくべき概念、国別の必要書類と代替書類の手配方法、遺言の有効性判断まで、外国籍の被相続人が関わる相続手続きの全体像を解説します。

相続案件を担当される士業の先生方や、外国人が関わる不動産取引・相続登記に携わる不動産業者の方の実務参考としてご活用ください。

外国籍が絡む相続でまず確認すること

準拠法とは何か(通則法36条・本国法主義)

外国籍の方が被相続人となる相続案件では、日本の民法をそのまま適用することはできません。どの国の法律に従って手続きを進めるかを最初に決める必要があり、この「適用すべき法律」のことを準拠法といいます。

相続の準拠法については、法の適用に関する通則法36条に次のように定められています。

✏️通則法36条(相続の準拠法)

「相続は、被相続人の本国法による。」

「本国法」とは被相続人の国籍国の法律のことです。たとえば米国籍の方が亡くなれば米国の各州法が、台湾籍の方であれば中華民国民法が、それぞれ相続の準拠法となります。日本に長年居住していた外国籍の方であっても、住所地(日本)ではなく国籍国の法律が適用される点が、通常の相続と大きく異なります。

案件着手時にまず確認すべきことは、被相続人の国籍です。パスポートや在留カード、または外国人登録原票の記載事項証明書で確認できます。

反致とは?─ 本国法が日本法に戻るケース(通則法41条)

通則法36条を適用すると外国法が準拠法になるように見えても、その外国法自身が「日本法によれ」と指定している場合は、日本法が適用されます。これを反致(はんち)といいます。

根拠は通則法41条です。

✏️通則法41条(反致)

「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。」

実務上、反致が問題になりやすいのは米国籍の方の案件です。米国の多くの州の国際私法では相続準拠法を「ドミサイル(domicile)の法」で決定します。米国籍の方が日本に生活の本拠を置いていた場合、米国の国際私法は「日本法による」と指定することになり、結果として日本の民法が適用されます。

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反致が成立するかどうかは、被相続人の国籍国の国際私法の規定内容によって異なります。国によって「住所地法主義」「本国法主義」「常居所地法主義」と採用する立場が異なるため、案件ごとに確認が必要です。

相続統一主義と分割主義、そしてドミサイルとは

準拠法の決め方には、もう一つ重要な視点があります。被相続人の遺産全体に一つの法律を適用するか(統一主義)、財産の種類・所在地によって複数の法律を適用するか(分割主義)という違いです。

立場 内容 採用国
統一主義 遺産全体に被相続人の本国法(または住所地法)を一律適用 日本・ドイツ・フランス等
分割主義 不動産は所在地法、不動産以外(動産・預金等)はドミサイルの法を適用 米国・英国・オーストラリア等

分割主義を採用する国々のキーワードがドミサイル(domicile)です。日本語の「住所」に近い概念ですが、単に居住しているだけでは成立しません。

✏️ドミサイル(domicile)とは

「永続的に生活する意思のある場所(生活の本拠)」のこと。単なる居所(residence)や一時的な滞在地とは異なり、その場所に永住する意思(animus manendi)があることが要件とされる。米国・英国等の法制度において相続準拠法の決定基準として用いられる。

米国籍の被相続人が日本に不動産を持つ場合、日本の不動産については日本法(所在地法)が適用されます。一方、日本の不動産以外の財産(動産・預金等)についてはドミサイルの法が適用されます。日本の相続登記手続きと、ドミサイル地の相続手続きを並行して進める必要が生じるケースも少なくありません。

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準拠法の判断を誤ると、遺産分割協議の有効性や相続登記の添付書類の選択がすべて狂います。初めて外国籍案件を担当する場合は、まず準拠法の確認から専門家にご相談ください。

国によって何が変わるか?戸籍制度の有無がポイント

外国籍の被相続人がいる相続手続きで最も手間がかかるのが、相続関係を証明する書類の収集です。日本では戸籍謄本で相続人を特定できますが、外国には戸籍制度がない国も多く、その場合は代替書類を組み合わせて相続関係を立証する必要があります。国ごとの制度の違いを把握しておくことが、案件をスムーズに進める前提となります。

戸籍制度がある国(台湾・韓国)

日本と類似した戸籍制度を持つ国として、実務で頻繁に登場するのは台湾と韓国です。ただしどちらも、日本の戸籍謄本のように「1通で相続関係が完結する」とは限らず、実務上の注意が必要です。

台湾(中華民国)は戸籍制度を有しており、中華民国戸籍謄本によって相続関係を証明します。準拠法は中華民国民法(第五編相続)です。ただし、複数の戸籍をまたいで関係が分断されていたり、日本生まれの方の場合は台湾戸籍に記載がないことも多いため、台湾の戸籍のみでは相続関係を証明できないケースがあります。その場合は追加書類で補完する対応が必要です。すべての書類に日本語訳の添付が必要です。

韓国はかつて日本に類似した戸籍制度がありましたが、2008年に廃止されました。現在は家族関係登録制度に移行しており、目的別に分かれた複数の証明書を組み合わせて相続関係を証明します。

書類名 証明する内容
基本証明書 被相続人の出生・死亡・国籍等の基本情報
家族関係証明書 配偶者・子との関係
婚姻関係証明書 婚姻・離婚の履歴
入養関係証明書 養親子関係
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親養子入養関係証明書は相続手続きでは交付されませんが、取得できなくても相続手続きを進めることはできます。また、2008年以前の旧戸籍制度の記録として過去の除籍謄本も取得可能です。現行の家族関係証明書では確認できない過去の婚姻・親族関係の補完に活用できます。

戸籍がない国(米国・欧州等)─ 代替書類と宣誓供述書

米国・英国・フランス・ドイツなど多くの国には日本のような戸籍制度がありません。これらの国の被相続人が関わる案件では、複数の公的書類と宣誓供述書を組み合わせて相続関係を証明します。

  • 死亡証明書(Death Certificate):被相続人の死亡を証明。州・郡・市の当局が発行
  • 出生証明書(Birth Certificate):相続人と被相続人の親族関係の証明に使用
  • 婚姻証明書(Marriage Certificate):配偶者であることの証明
  • 宣誓供述書(Affidavit):書類では証明しきれない相続関係を、外国公証人(Notary Public)の前で宣誓・署名した書面で補完

外国公証人の認証を受けた書類、または在外公館(大使館・領事館)で認証を受けた書類が登記添付書類として使用できます。いずれの書類にも日本語訳の添付が必要です。

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米国の死亡証明書は取得前に Find A Grave で故人を検索すると、墓碑情報から死亡年月日を事前確認できる場合があります。正式取得前の情報収集に活用できます。

実務で多い国の注意点(中国・フィリピン等)

中国の書類は、中国公証処(国営の公証機関)が発行した公証書を使用します。在日大使館・領事館の追加認証は不要です。ただし、公証書は必ずしも取得できるとは限りません。取得を拒否されたり手続きが滞るケースもあり、その場合は戸籍制度がない国と同様に宣誓供述書や代替の公的書類を組み合わせて相続手続きを進めることになります。

フィリピンでは、出生証明書・婚姻証明書・死亡証明書はいずれもフィリピン統計庁(PSA: Philippine Statistics Authority)が発行した書類を使用します。かつてNSO(国家統計局)発行だった書類はPSA発行に統一されています。

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外国書類の収集は、発行機関・認証機関・翻訳のすべてに時間がかかります。相続登記の期限(相続開始を知った日から3年以内)を念頭に置き、早期に書類収集に着手することをお勧めします。

住民票・印鑑証明書がない国への対処法

日本の相続登記では、相続人の住所証明として住民票、遺産分割協議書への押印証明として印鑑証明書を添付するのが原則です。しかし外国に居住する相続人にはこれらの書類が存在しません。それぞれに対応する代替書類があるため、正しい手順を把握しておくことが重要です。

住所証明の代替書類

海外在住の相続人の住所を証明するには、居住国の公的機関が発行した住所証明書を使用します。国によって書類の名称・発行機関は異なりますが、いずれも外国公証人の認証または在外公館(大使館・領事館)での認証を受けたものが登記添付書類として認められます。

対象者 住所証明の代替書類
海外在住の日本人相続人 在外公館発行の在留証明書
外国籍の相続人(本国に住所) 居住国の住民登録証明・住所証明書(認証付き)
外国籍の相続人(日本に住所) 住民票(外国人住民として登録されている場合)

印鑑証明書の代替─ 署名証明書の取得方法

遺産分割協議書の作成において、日本人相続人は実印での押印と印鑑証明書の添付が必要です。一方、印鑑制度のない国に居住する方には印鑑証明書が存在しないため、署名証明書(サイン証明)が代替書類として認められています。

署名証明書とは、本人が署名者本人であることを公的機関が証明した書類です。取得方法は対象者によって異なります。

  • 海外在住の日本人相続人:在外公館(日本大使館・領事館)で発行。単独型・貼付型の2種類があり、どちらも相続手続きに使用できます
  • 外国籍の相続人:居住国の外国公証人(Notary Public)の前で署名し、公証人の認証を受けた宣誓供述書(Affidavit)または署名証明で対応

⚠️ポイント

在外公館の署名証明には「単独型」と「貼付型」の2種類があります。どちらも相続手続きに使用できます。取得には在外公館への予約が必要なため、早めに手配することをお勧めします。

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他の専門家や窓口から「印鑑証明書がないため手続きできない」と言われた場合でも、署名証明書による対応が可能なケースがほとんどです。諦める前にご相談ください。

遺言がある場合・ない場合で手続きはどう変わるか?

外国籍の被相続人が亡くなった場合、遺言の有無によって手続きの方向性が大きく変わります。また遺言がある場合でも、その有効性の判断基準が日本人の場合と異なるため、確認が必要です。

遺言がない場合は、準拠法(被相続人の本国法)に従った法定相続として手続きを進めます。相続人の範囲・相続分は本国法によって決まるため、日本の民法の規定をそのまま当てはめることはできません。たとえば配偶者の相続分や代襲相続の範囲が日本法と異なる国もあります。遺産分割協議を行う場合は、本国法上の相続人全員が協議に参加する必要があります。

遺言がある場合は、その遺言の有効性を確認することが先決です。遺言の成立・効力については通則法37条が規定しています。

✏️通則法37条(遺言の成立・効力の準拠法)

「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。」

遺言の方式(形式)については、通則法37条とは別に「遺言の方式の準拠法に関する法律」が定めており、以下のいずれかの法律の方式を満たす遺言は有効とされます。

  • 遺言作成時における遺言者の本国法
  • 遺言作成時における遺言者の住所地法または常居所地法
  • 不動産に関する遺言については不動産所在地法
  • 遺言作成地法(行為地法)

外国語で作成された遺言書を日本の相続登記に使用する場合は、日本語訳の添付が必要です。

外国人の自筆証書遺言は印鑑がなくても有効なのか?

有効です。この点は実務上の誤解が多いため、明確にしておく必要があります。

日本の民法では自筆証書遺言に押印を要求していますが、これは日本人(日本法が準拠法となる者)に適用されるルールです。外国人の自筆証書遺言は、本人の本国法で有効な形式を満たしていれば、印鑑がなくても有効です。多くの国では遺言に印鑑を要求しておらず、署名のみで有効な遺言とされています。

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行政窓口や他の専門家から「印鑑がないので遺言は無効」と言われた場合でも、外国人については本国法の方式で判断されます。諦めずにご相談ください。

相続書類が取得できないときの対処法

外国書類の収集は、制度の違い・政治的事情・記録の消失などにより、どうしても取得できないケースがあります。書類が揃わなければ手続きが止まるわけではなく、代替手段によって相続手続きを進めることが可能です。

書類が取得できない主な原因としては以下が挙げられます。

  • 本国の公証機関・行政機関が書類の発行を拒否または対応できない(中国・北朝鮮等)
  • 戦時中・歴史的事情による戸籍・登録記録の消失
  • 制度変更により旧来の書類が廃止された(韓国旧戸籍等との連続性が証明しにくい場合)
  • 台湾戸籍で親族関係のつながりが証明できない(日本生まれで記載がないケース等)

代替手段:宣誓供述書(Affidavit)の活用

公的書類で証明できない相続関係や事実を、宣誓供述書(Affidavit)で補完します。外国公証人(Notary Public)の面前で相続人が署名・宣誓した書面であり、「書類では証明できないが、この内容は真実である」ことを証明する手段として認められています。

宣誓供述書に記載する主な内容は次のとおりです。

  • 被相続人と相続人の関係(続柄・家族構成)
  • 他に相続人がいないことの表明
  • 書類が取得できない事情の説明
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「書類が取れないから手続きできない」と判断する前に、代替手段の可否を専門家に確認することをお勧めします。当事務所では書類収集が困難な国の案件も対応しています。

相続税の取扱い(概要)

外国籍の被相続人が亡くなった場合でも、日本国内に財産があれば日本の相続税が課される場合があります。相続税の課税範囲は相続人の居住状況・国籍・被相続人の居住歴などによって異なり、国際的な案件では二重課税の問題も生じることがあります。

相続税の申告・納税は税理士の業務となります。登記手続きと並行して税務面の確認が必要な案件では、国際税務に精通した税理士との連携をお勧めします。当事務所でも税理士との連携体制を整えており、必要に応じてご紹介が可能です。

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相続税の申告期限は「相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」です。登記手続きと同時進行で税務側の準備も早期に着手することが重要です。

当事務所へのご相談・連携のご案内

司法書士事務所神戸リーガルパートナーズは、外国籍が絡む相続案件を多数のの実績をもとに対応しています。準拠法の確認から書類収集の手配、相続登記の完了まで一貫してサポートします。

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