「親の相続手続きを進めているが、海外の預金や海外の不動産をどうすればいいかわからない」——このような相談は少なくありません。
国内の銀行・信託銀行に遺産整理を依頼しても、普段付き合いのある士業事務所に相談しても、海外資産については対応できないと断られてしまうことがあります。実際、海外預金の解約や海外不動産の名義変更・売却は、国内の窓口だけでは完結しないことが少なくありません。
このページでは、日本側の相続手続き、税務、財産所在地国での手続きを分けて整理し、海外資産の相続で何をすべきか、誰に相談すべきかを解説します。
海外資産の相続手続きは、国内の遺産整理だけで終わらないことがある
国内の銀行や信託銀行が提供する遺産整理サービスは、海外預金・海外不動産の現地での解約や名義変更までは対象外、または対応が難しいとされることがあります。
銀行・信託銀行の遺産整理サービスは、国内の預貯金・有価証券・不動産の名義変更や解約を主な対象として設計されていることが多く、海外の金融機関や登記機関とのやり取り、現地の法律に基づく手続きまでは契約の範囲に含まれていない場合があります。「遺産整理を依頼すれば海外資産もすべて解決する」と考えていると、途中で行き詰まってしまうことがあります。
また、対応できないと断られてしまうのは金融機関だけに限りません。普段付き合いのある司法書士・税理士事務所であっても、国際相続の実務経験がなければ、海外資産の手続きについては対応できないと断られるケースが珍しくありません。
⚠️ポイント
海外資産がある場合は、それも含めて対応可能かを依頼先に個別に確認する必要があります。国内資産の相続と海外資産の相続を別々の専門家に依頼すると、手続きが重複し、かえって費用が高くなってしまうことがあります。逆に言えば、依頼前に対応範囲を確認しておくだけで、後になって手続きが止まる事態を防ぎやすくなります。
海外資産がある場合は、依頼した後で「海外資産は対象外でした」と分かる事態を避けるためにも、日本側の手続き、税務、財産所在地国での手続きを最初に分けて考えておくことが有効です。
まず分けるべき3つの手続き
海外資産の相続では、性質の異なる3つの手続きを分けて考える必要があります。1つの手続きだと思って進めてしまうと、必要な資料や相談先を取り違えてしまうことがあります。
✏️海外資産相続で分けるべき3つの手続き
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1
日本側の相続人・遺産分割の整理
戸籍の収集、相続人の確定、遺産分割協議書の作成など、日本国内で完結する相続手続きの整理です。
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2
日本の相続税・税務申告
海外資産を含めた財産全体の評価、相続税申告、外国税額控除等の税務判断です。担当は税理士になります。
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3
財産所在地国での解約・名義変更・売却・承継手続き
海外の金融機関での預金解約や、海外不動産の名義変更・売却など、財産が所在する国の制度・言語に従って進める手続きです。
この3つは担当する専門家も進め方も異なるため、最初にどの手続きがどこに当たるのかを整理しておくと、相談先を誤らずに済みます。
海外預金・海外口座を相続した場合
結論として、海外の銀行や証券会社の口座を相続する場合、日本の戸籍謄本や遺産分割協議書だけでは手続きが完了しないことが多く、口座がある金融機関ごとの指定書類、翻訳、認証が必要になります。
海外の金融機関は、各金融機関独自の相続手続き用フォームへの記入や、相続人の本人確認書類の提出を求めるのが一般的です。日本の戸籍謄本や遺産分割協議書をそのまま提出しても、公証人の認証、アポスティーユや領事認証が別途必要になることがあります。求められる認証の方式は国・金融機関によって異なります。
| 準備段階 | 内容 |
|---|---|
| 相談時にあると良い情報 | 金融機関名、支店、口座番号、口座名義、死亡日時点の残高がわかる資料、直近の取引明細 |
| 金融機関へ提出する可能性がある書類 | 金融機関指定の相続届出フォーム、戸籍・遺産分割協議書の翻訳、公証人の認証・アポスティーユ・領事認証を受けた書類 |
| 本人確認・追加書類 | 相続人のパスポート等の本人確認書類、宣誓供述書等(求められる書類は金融機関・国により異なるため個別確認が必要です) |
国・金融機関によっては、口座の名義変更や払い戻しに先立って、プロベート(Probate。相続財産を裁判所の監督のもとで管理・分配する手続き)を経る必要があります。国・州により、遺言で指定された遺言執行者や、裁判所が選任する遺産管理人が、裁判所の関与のもとで資産調査・債務の清算・相続人への分配を進めることがあります。手続期間や現地専門家への依頼の必要性は、国・地域・資産の内容によって異なります。
国際相続の基本的な考え方もあわせてご覧ください。
必要書類は金融機関ごとに異なり、同じ国内でも銀行によって指定フォームの様式が違うことがあります。まずは口座がある金融機関に、相続手続きに必要な書類一式を確認することから始めましょう。
資料の収集や翻訳・認証には数週間から数ヶ月かかることも珍しくありません。海外預金がある場合は、できるだけ早い段階で必要書類を洗い出し、取り寄せに着手することが重要です。
海外不動産を相続した場合
結論として、海外不動産の相続は、日本の相続登記とは別の手続きであり、財産が所在する国・地域の法律と登記機関に従って進める必要があります。
日本国内の不動産であれば、司法書士が法務局に相続登記を申請することで名義変更が完了します。しかし海外不動産の場合、名義変更を担当する機関も手続きの流れも国によって異なり、現地の弁護士・地政士(台湾)等、その国の専門家との連携が不可欠です。
国・州によっては、名義変更に先立ってプロベートを経る必要があります。日本の相続登記のように相続人だけで手続きが完結するとは限らない点が、海外不動産の大きな特徴です。
プロベートの基本的な流れは前の章(海外預金・海外口座を相続した場合)で触れたとおりですが、不動産の場合は登記・売却・管理の論点が加わるため、手続きが長期化することがあります。プロベートの要否や進め方は国・地域・不動産の権利形態によって異なります。
名義変更後、その不動産をどうするか(保有を続ける、賃貸に出す、売却する)によって必要な手続きも変わります。売却する場合は現地の不動産業者、賃貸として維持する場合は管理会社との契約が必要になり、固定資産税に相当する現地の税や管理費、賃料収入に対する現地税務が関わることもあります。これらの税務対応は、現地の税務専門家や日本側の税理士と連携しながら進めることになります。
⚠️ポイント
海外不動産の名義変更・売却には、現地の弁護士・不動産業者・税務専門家との連携が必要になります。日本側の窓口だけで完結する手続きではないことを前提に、早めに専門家へ相談することをお勧めします。
解決事例
当事務所が実際に対応した、海外資産の相続に関する解決事例をご紹介します。
✏️海外資産の相続 解決事例
不動産+預貯金
プロベート
ハワイのコンドミニアムと預貯金をプロベートから売却まで解決
税理士事務所から相続税申告のご依頼を受けていた案件で、海外資産の相続について当事務所にご紹介いただきました。相続財産はハワイのコンドミニアムと預貯金で、不動産の相続にはプロベート(現地裁判所での遺産検認手続き)が必要でした。現地の弁護士と協力し、プロベートを経て不動産の名義変更から売却までを完了させました。同様の事例はカリフォルニアの不動産でも対応しています。
預貯金+不動産
台湾の預貯金・不動産の相続手続きから日本への送金まで一貫対応
税理士事務所から台湾にある財産の相続についてご紹介いただいた案件です。台湾の地政士・不動産業者と連携して相続手続きを進め、相続税の申告、不動産の名義変更・売却、預貯金の解約までを終わらせ、日本の相続人への送金まで対応しました。
遺言執行
プロベート
英国で作成された遺言の遺言執行者との連携によるプロベート対応
被相続人が英国で遺言を作成し、遺言執行者を指定していたケースです。相続人の方は連絡方法や進め方がわからず、税理士事務所からのご紹介でご相談いただきました。英国の遺言執行者である弁護士と連絡を取り、現地裁判所でのプロベートを経て、遺言執行を進めました。
不動産+預貯金
フランスのアパートと銀行口座の相続手続きを現地弁護士と完了
税理士法人から渉外系弁護士を通じてお問い合わせをいただいた案件です。相続財産としてフランスのアパートと銀行口座があり、フランスの弁護士に依頼して相続手続きを進め、完了させました。
誰に相談すべきか
海外資産の相続では、税理士、司法書士・行政書士、現地の弁護士等の専門家が、それぞれ異なる役割を担います。役割を理解しておくと、相談先を迷わずに済みます。
| 相談内容 | 相談先 |
|---|---|
| 相続税の申告、海外資産の評価、外国税額控除等の税務判断 | 税理士 |
| 国内の相続人確定、遺産分割協議書の作成、海外資産の資料整理・外国語書類の確認、現地専門家との連絡調整 | 司法書士・行政書士 |
| 財産所在地国での名義変更・売却・プロベート等、現地の実際の手続き | 現地の弁護士・専門家 |
解決事例で見たとおり、国内の相続手続きの整理から、海外資産の資料整理、現地専門家との連絡調整までを一つの窓口で進められる専門家であれば、案件全体を把握したまま手続きを進めやすくなります。
国内資産の相続を依頼している専門家と、海外資産の手続きを依頼する専門家が別々だと、同じ資料を何度も準備し直したり、連絡調整に時間がかかったりして、かえって費用や手間が増えてしまうことがあります。海外資産がある場合は、早い段階で「国内・海外の手続きをまとめて相談できるか」を確認しておくことをお勧めします。
相談前に準備しておきたい資料
すべてが揃っていなくても相談は可能ですが、以下の情報をできる範囲で準備しておくと、初回の相談がスムーズに進みます。
- 被相続人・相続人の氏名、住所、国籍、日本での居住歴がわかる資料
- 遺言書(ある場合)
- 戸籍謄本等、日本側の相続関係がわかる資料(遺産分割協議書は未作成の段階でも構いません)
- 海外の金融機関名、支店、口座番号、口座名義
- 海外不動産の所在地、権利関係、評価資料
- 現地の金融機関・行政機関等からの通知・書類(ある場合)
資料が手元にないものは、「まだ確認できていない」という状態のまま相談していただいて構いません。わかる範囲の情報を持って早めに相談することが、手続き全体をスムーズに進めるうえで重要です。
よくある質問
- 信託銀行の遺産整理に頼めば海外資産も対応してもらえますか?
- 対応してもらえるとは限りません。信託銀行の遺産整理サービスは国内資産・国内手続きを中心に設計されていることが多く、海外資産は対象外、または対応が難しいとされる場合があります。海外資産がある場合は、それも含めて対応可能かを事前に確認することが重要です。
- 海外口座の解約は日本の銀行に頼めますか?
- 日本の銀行では手続きできません。海外口座の解約は、口座がある現地の金融機関に対して、金融機関ごとに指定された書類・手続きで進める必要があります。
- 海外不動産は日本の遺産分割協議書だけで名義変更できますか?
- 日本の遺産分割協議書だけでは名義変更できないことが多いです。海外不動産の名義変更は、財産が所在する国の法律・登記機関の手続きに従う必要があり、国によってはプロベート等の追加手続きが必要になります。
- 海外資産は日本の相続税の対象ですか?
- 対象になる場合があります。特に居住無制限納税義務者・非居住無制限納税義務者に該当する場合は、国外財産も相続税の課税対象になりますが、被相続人・相続人の住所、国籍、居住歴等によって区分が変わります。詳しくは税理士にご確認ください。
- 海外資産について現地専門家が必要になるのはどんな場合ですか?
- 海外不動産の名義変更・売却、プロベートが必要な財産の承継など、財産所在地国の法律・機関に基づく手続きを進める場合に、現地の弁護士・不動産業者等の専門家が必要になります。
- 司法書士・行政書士に相談できることはありますか?
- 国内の相続人確定や遺産分割協議書の作成、海外資産の資料整理、外国語書類の確認、現地専門家との連絡調整についてご相談いただけます。税務判断そのものは税理士にご相談ください。
まとめ
海外資産の相続では、日本側の相続手続き、税務、財産所在地国での手続きという性質の異なる3つを分けて考えることが出発点になります。国内の銀行・信託銀行や、国際案件に不慣れな士業事務所では対応できないと断られることがありますが、その場合も、海外預金・海外不動産それぞれに必要な資料と手続きを整理し、税理士・司法書士・行政書士・現地の専門家それぞれの役割分担を把握すれば、落ち着いて進めることができます。
国内資産の相続と海外資産の相続を別々の専門家に依頼すると、かえって手間や費用が増えてしまうことがあります。まずは財産の全体像を整理するところから、当事務所にご相談ください。
海外資産の資料整理・国際相続手続きについてご相談ください
海外預金・海外不動産の相続では、日本側の相続手続き、税務、現地手続きが同時に問題になります。当事務所では、海外資産の資料整理、外国語書類の確認、国内相続手続きとの接続、現地専門家・税理士との連携をサポートしています。遠方にお住まいの方・海外在住の方もオンラインでご相談いただけます。
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