結論から言えば、相続登記の義務化は、外国人相続人にも例外なく適用されます。2024年4月の施行から相続発生を知った日を起算点として3年以内に登記しなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります。猶予期間(2027年3月末)が終わりに近づいている今、対応を急ぐ必要があります。
ただし、外国人相続人のケースは日本人に比べて手続き上のハードルが高い現実があります。戸籍に相当する書類がない、準拠法の確認が必要、海外在住で書類取得に時間がかかる——こうした事情が重なると、義務だとわかっていても登記が進まないケースが多くあります。
本記事では、士業・不動産業者・金融機関担当者の方を対象に、外国人相続人への義務の適用範囲、過料リスク、「正当な理由」による猶予の活用、そして必要書類を実務目線で整理します。手続きの詳細については外国人が被相続人の相続手続きもあわせてご参照ください。
相続登記の義務化は外国人にも適用される
義務化の対象・申請期限・過料(10万円以下)
2024年4月1日、改正不動産登記法が施行され、相続により不動産を取得した相続人は、相続の開始および自らが相続人であることを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務となりました(不動産登記法第76条の2)。義務に違反した場合は10万円以下の過料が科される可能性があります(同法第164条)。
この義務は国籍を問いません。日本の不動産を相続した外国人相続人も、日本人と同様に義務の対象です。「日本に住んでいないから」「外国籍だから」という理由で免除されることはありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施行日 | 2024年4月1日 |
| 義務者 | 相続により不動産を取得した相続人(国籍不問・外国人も対象) |
| 申請期限 | 相続開始および自らが相続人であることを知った日から3年以内 |
| 経過措置の期限 | 2024年4月1日以前の相続:2027年3月31日まで |
| 違反した場合 | 10万円以下の過料 |
| 法的根拠 | 不動産登記法第76条の2・第164条 |
猶予期間の終わりが迫っている:2027年3月末が実質的な期限
2024年4月1日より前にすでに相続が発生していたケースには、経過措置として2027年3月31日までに登記を完了すればよいとされています。この猶予期限まで残り1年弱となった今、手続きが止まっているケースは早急に動き出す必要があります。
なお、2024年4月1日以降に相続が発生した場合は、相続開始および自らが相続人であることを知った日から3年以内が期限です。複数の不動産を相続した場合、それぞれの不動産について申請が必要です。
猶予期限(2027年3月31日)は過去の相続案件にのみ適用されます。2024年4月以降の相続については、知った日から3年以内という個別の期限が適用されます。混同しないようご注意ください。
外国人相続人に特有の3つのハードル
戸籍がない:宣誓供述書で代用できるか?
相続登記には相続関係を証明する書類が必要ですが、外国人には日本の戸籍がありません。この場合、外国公証人(Notary Public)が作成した宣誓供述書(Affidavit)や在外公館(日本大使館・総領事館)が発行する証明書で代用することができます。
宣誓供述書とは、相続人本人が公証人の面前で宣誓し、「自分が相続人であること」「他に相続人が存在しないこと」などを証明する書類です。すべての外国語書類には日本語訳(翻訳者の氏名・押印)を添付する必要があります。書類の取得から日本語訳の作成まで、数週間〜数ヶ月を要することがあるため早めの着手が重要です。
登記の添付書類にアポスティーユは原則不要です(法務省通達)。「外国公証人の証明+日本語訳」で対応できます。
準拠法の確認:どの国の相続法が適用されるか
国際相続では、どの国の法律を適用するかの確認(準拠法の判断)が欠かせません。日本の「法の適用に関する通則法」第36条により、相続は被相続人の本国法によります。ただし、「反致」といって、本国法によれば日本法を適用するとされている場合には日本法が適用されます。
外国法が適用される場合、相続人の範囲・相続分・遺言の有効性などが日本法と異なることがあります。準拠法の確認を誤ると登記申請が却下されるリスクがあるため、渉外登記に精通した司法書士への相談が不可欠です。
海外在住の相続人が手続きする場合
相続人が海外在住の場合、住所証明書の取得・委任状の作成・書類の国際郵送など、すべての手続きに時間と費用がかかります。特に複数の国に相続人が分散しているケースでは、全員分の書類を揃えるまでに数ヶ月を要することがあります。
海外在住の相続人を抱えるケースでは、早い段階で司法書士に相談し、書類収集のスケジュールを組むことが、2027年3月末の期限を守るうえで最も重要な対策です。
放置した場合「正当な理由」で過料を免れるか?
正当な理由として認められるケース
期限内に相続登記ができなかった場合でも、正当な理由があると認められれば過料が免除される可能性があります。外国人相続人に関係する事情として、以下が考慮される可能性があります。
- 外国書類(宣誓供述書・出生証明書・死亡証明書等)の取得に通常より長い期間を要した
- 準拠法の確認や相続人の調査に相当の期間を要した
- 遺産分割協議が難航し、合意形成に時間を要した
- 天災・紛争・入国制限など不可抗力による遅延
正当な理由が認められないケース・注意点
一方、単に手続きを知らなかった・後回しにしていたというだけでは、正当な理由として認められない可能性があります。
- 「外国人だから義務を知らなかった」→ 認められない可能性が高い
- 「日本に来る機会がなかった」→ 代理申請が可能なため、理由として弱い
- 「費用がかかるため保留していた」→ 認められない
正当な理由の認定基準は法務局の運用によって異なる部分があり、現時点では具体的な基準が完全に明確化されていません。期限が迫っている場合は、正当な理由を主張する前にまず登記申請を進めることを優先してください。
【実務編】外国人相続人の相続登記に必要な書類
必要書類一覧(相続人が外国人の場合)
被相続人が日本人・相続人に外国人が含まれる場合
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書または遺言書
- 外国人相続人の宣誓供述書
- 外国人相続人の住所証明書(住民登録票または宣誓供述書)
- すべての外国語書類に日本語訳
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
被相続人が外国人の場合(追加書類)
- 被相続人の本国の相続証明書類(宣誓供述書・死亡証明書・出生証明書・婚姻証明書等)
- 日本語訳(すべての外国語書類)
宣誓供述書の取得と日本語訳
宣誓供述書(Affidavit)は、外国公証人(Notary Public)の面前で相続人本人が宣誓して作成する書類です。「自分は○○の法定相続人であり、他に相続人は存在しない」といった内容を証明します。原則として本国(国籍国)の公証人等認証権限がある官憲の面前で署名して認証を受けます。
外国語の書類は日本語訳が必要です。翻訳者は誰でも構いませんが、内容の正確さが求められます。登記の添付書類にアポスティーユは原則不要です。
海外在住の相続人が司法書士に委任する場合の流れ
- 司法書士へオンラインで相談・依頼(メール・ビデオ通話)
- 必要書類リストの確認・書類収集のスケジュール立案
- 必要書類の取得(戸籍謄本・固定資産評価証明書等)
- 遺産分割協議(相続人全員で合意形成)
- 宣誓供述書等の作成・認証、委任状への署名
- 書類を司法書士へ送付(国際郵便)
- 相続登記申請(法務局)
- 登記完了書類の受領
費用・期間の目安
| 項目 | 国内在住の外国人相続人 | 海外在住の外国人相続人 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産評価額 × 0.4% | |
| 書類取得費用 | 数千〜数万円 | 数万〜十数万円 (国・書類の種類による) |
| 手続き期間 | 1〜2ヶ月程度 | 2〜4ヶ月程度 |
費用・期間はケースにより異なります。複数の相続人がいる場合・準拠法の確認が必要な場合はさらに時間がかかることがあります。
国際相続登記のご相談はオンラインでも対応します
外国人相続人の相続登記・国際相続のご相談
相続登記の義務化に関するご不明点や、外国人相続人への対応でお困りの場合はお気軽にお問い合わせください。準拠法の確認・宣誓供述書の作成サポートから登記申請まで一括対応しています。海外在住の方・遠方の方にもオンラインで対応しています。
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