税務署から「相続税についてのお尋ね」や、海外資産に関する通知が届くと、多くの方が驚きます。被相続人が保有していた海外口座や海外不動産の存在を相続人が把握しておらず、通知を受けて初めて気づいたというケースも少なくありません。
知らなかったという事情があっても、通知を放置すると、加算税や延滞税がかかるなど対応が難しくなることがあります。このページでは、通知を受け取った直後にまず確認すべきこと、税務署が海外資産を把握できる背景、そして税務は税理士へ、海外資産の資料整理や国際相続手続きは専門家へと、相談先を整理する視点を解説します。
税務署から海外資産に関する通知・お尋ねが届いたら
税務署から届く文書は、「相続税についてのお尋ね」という照会文書のこともあれば、より具体的な資料提出を求める通知のこともあります。名称や形式にかかわらず、最初に確認すべき点は同じです。
届いた文書を開いたら、次の項目を落ち着いて確認してください。
- 差出人(どの税務署の、どの部署からか)
- 対象者(被相続人・相続人のうち誰宛の通知か)
- 対象となっている資産の種類(海外口座・海外不動産・海外証券など、記載があれば)
- 回答・資料提出の期限
- 具体的に求められている回答内容・資料
- すでに相続税の申告をしているかどうか
期限内に何らかの対応をすることが欠かせません。内容を十分に把握できていない段階でも、通知を受け取ったこと、確認・対応中であることを税務署へ伝えられるかどうかを検討してください。
海外資産にも日本の相続税はかかるのか?
結論としては、多くの場合、海外にある資産も日本の相続税の対象になります。ただし、対象になる財産の範囲は、被相続人・相続人の住所や国籍、日本での居住歴によって変わることがあります。
日本の相続税法では、相続税を負う人を大きく二つに分けています。
✏️無制限納税義務者と制限納税義務者
無制限納税義務者は、取得した財産が国内にあるか国外にあるかにかかわらず、財産全体が相続税の対象になります。一方、制限納税義務者は、日本国内にある財産だけが相続税の対象になります。
相続開始時の被相続人・相続人の住所、国籍、過去の日本国内住所の有無などによって、海外口座・海外不動産・海外証券・海外法人持分といった海外資産まで課税対象になる場合があります。
どちらの区分に当たるかは、住所・国籍・居住歴の組み合わせなど個別事情によって変わるため、「海外にある資産だから対象外」と自己判断することは避け、海外資産がある場合は税理士に確認することをお勧めします。
なぜ税務署は海外資産を把握できるのか
「海外にある資産だから、日本の税務署にはわからないだろう」と考える方は少なくありません。しかし、海外の金融機関の口座情報が、税務当局間で自動的に交換される仕組みがあります。
この仕組みの中心にあるのが、OECDが策定した共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)です。CRSに基づき、金融機関は非居住者の口座情報を、その非居住者が居住する国の税務当局へ報告し、報告された情報は租税条約等の情報交換規定に基づいて各国の税務当局間で自動的に交換されます。
日本では、平成29年(2017年)1月1日以後、金融機関等に新たに口座を開設する際に居住地国等を記載した届出書の提出が求められる制度が始まりました。そして平成30年(2018年)以後、毎年4月30日までに、金融機関が特定の非居住者の金融口座情報を所轄税務署長に報告し、各国税務当局との自動的な情報交換が行われています。
CRSは多数の国・地域が参加する制度ですが、参加していない国や、報告の対象にならない口座・時期もあります。「必ずすべての海外資産が把握されている」とは限らない一方、「海外にあるから絶対にわからない」とも言えないのが実情です。なお、CRSは令和6年度税制改正で見直され、令和8年から改正後の制度が施行され、令和9年以後の報告・情報交換から反映される予定です。制度は今後も改正されることがあるため、最新の運用は国税庁の情報でご確認ください。
海外資産が税務当局に把握される背景については、当事務所のYouTubeでも国際税務に詳しい税理士の先生と対談しています。まず全体像を知りたい方は、こちらの動画も参考にしてください。
動画の内容はあくまで理解を助ける補足です。制度の詳細や個別の判断については、この記事および税理士への確認を基準にしてください。
申告済みの場合と、無申告のまま通知が届いた場合で対応は変わる
税務署への対応は、すでに相続税を申告しているかどうかで、確認すべき内容が変わります。まずはご自身がどちらの状況にあるかを整理しましょう。
申告済みの場合:申告書に海外資産が含まれているか確認する
すでに相続税の申告を済ませている場合は、申告書に海外資産が正しく含まれているかを確認します。具体的には、海外口座・海外不動産・海外証券などが申告書の財産一覧に記載されているか、評価額や為替レートの算定根拠、添付資料の内容を見直します。
被相続人が保有していた海外資産の存在を、申告時点で相続人が把握していなかったために、申告から漏れてしまっているケースも少なくありません。資産の存在を知らなかったという事実は、まず税理士にそのまま伝えることが対応の第一歩になります。
無申告のまま通知が届いたらどうする?
結論として、まず相続税の申告そのものが必要だったかどうかを確認する必要があります。相続税の申告・納税期限は原則として、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。相続税には基礎控除額があり、遺産の総額がこれを超えない場合は申告が不要です。海外資産の存在に気づかずに申告をしていなかった場合は、海外資産を含めた財産の総額を洗い出したうえで、申告が必要だったかを判断します。
申告が必要だったと判明した場合は、期限後申告という手続きが必要になります。また、すでに申告済みで海外資産の記載が漏れていた場合は、修正申告や更正の請求といった手続きが関係することがあります。
期限後申告・修正申告・更正の請求のいずれが必要か、またどの範囲まで手続きすべきかは、財産の内容や申告状況によって個別に異なります。具体的な手続きの選択・実行は税理士に確認してください。
いずれの場合も、「知らなかったから大丈夫」と放置せず、通知を受け取ったことをきっかけに、早めに財産の全体像を整理することが重要です。
海外資産の種類ごとに確認すべき資料
海外資産は種類によって、集めるべき資料が異なります。財産の種類ごとに、確認すべき資料を整理しておくと、税理士への相談もスムーズに進みます。
| 資産の種類 | 確認・収集すべき資料 |
|---|---|
| 海外銀行口座 | 残高証明書、取引明細、口座名義、死亡日時点の残高、通貨、為替レートの根拠資料 |
| 海外証券口座 | 証券会社発行の残高明細、保有銘柄、評価日、配当・利息の受取記録 |
| 海外不動産 | 登記事項に相当する権利証明、固定資産評価に相当する資料、鑑定・査定書、賃貸収入がある場合はその資料 |
| 海外法人持分・信託等 | 個別性が高いため、資料の種類自体から専門家に確認 |
海外銀行口座・海外証券口座の資料は、現地の金融機関に直接請求する必要があることが多く、取得までに数週間から数ヶ月かかる場合があります。海外不動産の評価資料も、現地の専門家への依頼が必要になることが少なくありません。
⚠️ポイント
海外資産の資料収集は時間がかかることを前提に、税務署への回答期限を意識しながら早めに着手することが重要です。資料が期限までに揃わない場合も、税務署へその状況を伝えられるか検討してください。
海外法人持分・信託等が関わる場合は、資産の性質そのものが個別性が高く、必要な資料も案件ごとに異なります。早い段階で専門家に相談することをお勧めします。
通知を放置した場合のリスク
通知を受け取った後、内容の確認や対応が難しいからといって放置してしまうと、いくつかのリスクが生じます。
まず、回答・資料提出の期限を過ぎてしまうこと自体が問題になります。また、期限内に申告や納税をしなかった場合には無申告加算税、申告した税額が本来より少なかった場合には過少申告加算税が課される場合があります。さらに、納付が遅れた期間に応じて延滞税という利息に相当する税金が発生することもあります。
重加算税は、これらの加算税に代えてより重く課される税金で、意図的な隠蔽・仮装があった場合に限って適用されます。単に海外資産の存在を把握できていなかったという事情だけで、直ちに重加算税の対象になるとは限りません。ただし、実際にどの加算税が課されるかは、事実関係を踏まえた個別の判断になるため、税理士への確認が必要です。
加算税・延滞税の具体的な税率や金額は、財産の内容や申告状況によって異なります。この記事では概要のみを説明していますので、実際の計算・判断は税理士にご確認ください。
回答期限を過ぎたまま何も連絡しない、あるいは誤った説明をしてしまうことも、状況を悪化させる要因になります。通知を受け取った時点で対応を始めれば、これらのリスクは抑えられます。
相談前に準備しておきたい資料
税理士や国際相続の専門家に相談する際は、以下の資料をできる範囲で準備しておくと、初回の相談がスムーズに進みます。
- 税務署から届いた通知一式
- 相続税申告書の控え(申告済みの場合)、または財産の一覧(未申告の場合)
- 被相続人・相続人の住所、国籍、日本での居住歴がわかる資料
- 海外資産の金融機関名・国・口座番号・名義・残高がわかる資料
- 海外不動産の所在・権利関係・評価に関する資料
- 遺言書、遺産分割協議書、海外での相続手続きに関する書類
すべてが揃っていなくても相談は可能です。わかる範囲の情報を持って早めに相談することが、対応期限に間に合わせるうえで重要です。資料が手元にないものは、「まだ確認できていない」という状態のまま相談していただいて構いません。
税理士に相談すべきこと、国際相続専門家に相談できること
海外資産に関する税務署対応では、税理士に相談すべきことと、国際相続の実務を専門とする当事務所のような専門家に相談できることが分かれています。両者の役割を整理しておくと、相談先に迷わずに済みます。
| 相談内容 | 相談先 |
|---|---|
| 税務署への回答・税額計算・修正申告等の税務手続き | 税理士 |
| 海外資産の所在確認・外国語書類の整理 | 国際相続専門の実務家 |
| 海外の金融機関・不動産に関する資料整理・現地専門家との連絡調整 | 国際相続専門の実務家 |
| 相続人の確定・遺産分割協議・相続登記等の国内相続手続き | 国際相続専門の実務家 |
税務申告そのもの、税額の計算、税務署との交渉は税理士の業務です。当事務所がこれらを代行することはできません。一方で、海外資産の所在確認、外国語書類の整理、海外の金融機関・不動産に関する資料整理や現地専門家との連絡調整、国内での相続手続きとの接続は、当事務所が対応できる範囲です。必要に応じて海外資産の相続に詳しい税理士と連携しながら進めることも可能です。
「まず何から手をつければよいかわからない」という段階でも構いません。財産の全体像の整理から、当事務所にご相談ください。
海外資産の資料整理・国際相続手続きについてご相談ください
税務署への回答や税額の判断は税理士への相談が必要ですが、海外資産の資料整理、外国語書類の確認、現地専門家との連絡調整、国内の相続手続きとの接続については、当事務所でもご相談いただけます。必要に応じて税理士と連携しながら対応します。オンラインでのご相談も可能です。
オンライン相談対応可
よくある質問
Q. 日本の相続税は海外資産にもかかりますか?
A. 多くの場合、かかります。被相続人・相続人の住所や国籍、日本での居住歴によって課税対象の範囲が変わるため、個別の判断が必要です。
Q. 税務署から海外資産についてお尋ねが来たらどうすればよいですか?
A. まず差出人、対象資産、回答期限、求められている資料を確認してください。放置せず、期限内に何らかの対応をすることが重要です。
Q. 相続税申告後に海外口座が見つかった場合はどうなりますか?
A. 申告書に記載が漏れていた可能性があります。修正申告等の手続きが必要になることがあるため、税理士に確認してください。
Q. 相続税申告をしていないまま税務署から通知が届いた場合はどうすべきですか?
A. まず相続税の申告そのものが必要だったかを確認します。必要だった場合は期限後申告の手続きが関係します。
Q. 海外不動産の相続税評価はどうしますか?
A. 現地の評価・鑑定資料等をもとに評価しますが、方法は財産の性質によって異なるため、税理士への確認が必要です。
Q. 海外資産が少額でも申告漏れになりますか?
A. 少額であっても、遺産全体の総額が基礎控除額を超える場合は申告対象に含める必要があります。金額の大小だけで判断しないことが大切です。
Q. 税務署は海外口座をどこまで把握していますか?
A. CRS(共通報告基準)による情報交換の仕組みがありますが、すべての国・すべての口座が対象とは限りません。「必ず把握されている」「絶対にわからない」のどちらとも断定できません。
Q. 司法書士・行政書士に相談できることはありますか?
A. 海外資産の所在確認、外国語書類の整理、海外の金融機関・不動産に関する資料整理や現地専門家との連絡調整、国内での相続手続きとの接続についてご相談いただけます。税務判断そのものは税理士にご相談ください。
まとめ
税務署から海外資産に関する通知やお尋ねを受け取ったら、放置しないことが第一です。存在を知らなかった海外資産が後から見つかるケースは多くありますが、その事情があっても、期限内に何らかの対応を始める必要があります。
海外資産の資料収集には時間がかかることが多いため、早めに動き出すことが重要です。税務署への回答や税額の判断は税理士に、海外資産の所在確認・外国語書類の整理・現地専門家との連絡調整・国内での相続手続きは当事務所のような専門家に、それぞれ早い段階で相談してください。必要に応じて両者を連携させれば、通知への対応を落ち着いて進められます。
