外国籍の役員が代表取締役に就任するとき、日本人の役員と同じように印鑑証明書を出せないことがあります。その場合に印鑑証明書の代わりになるのが、署名が本人のものであることを証明する署名証明書(サイン証明書)です。
この証明書をどこで取るかは、役員の国籍と、いま住んでいる国の組み合わせで決まります。本国以外の国に住んでいる役員の場合、住んでいる国の公証人の証明がそのまま使えるとは限りません。
この記事では、役員本人に準備を頼む前に会社の担当者が押さえておきたいことを、法務省の通達に沿って整理します。証明が必要になる書類、国籍・居住国別の取得先、本国で証明を取れないときの代わりの手段、認証を受ける前の準備の4つです。
外国人が代表取締役になると、印鑑証明書の代わりに何が必要?
日本で印鑑証明書を取れない外国人の場合は、本国官憲(本国の行政機関・大使館・領事館・公証人など)が作成した署名証明書で、印鑑証明書の代わりにできます。
取締役会を置く株式会社で代表取締役が新たに就任すると、登記の申請書には、その代表取締役が就任承諾書に押した印鑑の印鑑証明書を付ける必要があります(商業登記規則61条4項・5項)。外国人が就任承諾書に押印ではなく署名をした場合は、署名が本人のものであることの本国官憲の証明書を付ければ、印鑑証明書の代わりになります(平成28年6月28日民商第100号通達。平成29年2月10日民商第15号で一部改正)。
商業登記規則61条4項・5項
署名証明書(サイン証明書)とは
署名証明書は、書類にある署名が本人のものであることを、公的な機関が証明する書面です。日本の印鑑証明書は「この印鑑は本人が登録したもの」と示すものですが、サインを使う国には印鑑登録の制度がありません。そのため、本人が証明する機関の前で署名し、その署名が本人のものに間違いないと証明してもらいます。
呼び方は「サイン証明書」「署名証明」などさまざまですが、登記で問われるのは呼び方ではありません。誰が作成した証明か、どの書類の署名についての証明かの2点です。
日本で印鑑登録している外国人は印鑑証明書で足りる
日本に住民登録がある外国人は、住んでいる市区町村で印鑑登録ができます。印鑑登録をしていれば、日本人の役員と同じく就任承諾書に実印を押し、市区町村の印鑑証明書を付けて登記を申請できます。署名証明書を用意する必要はありません。
ただし、新しく就任する役員が日本に住んでいても、印鑑登録をしていなければ印鑑証明書は取れません。就任承諾書を作る前に、印鑑証明書を取れるのか、署名で進めるのかを決めておくと、あとで書類を作り直さずに済みます。
代表取締役全員が海外在住でも登記はできる
以前は、代表取締役のうち最低1人は日本に住所が必要という取扱いがありました。この取扱いは廃止され、今は代表取締役の全員が海外に住んでいても、就任や設立の登記を申請できます(平成27年3月16日民商第29号通知)。代表取締役が日本人である必要もありません。
どの書類の署名に証明が必要か
署名証明書が必要になるのは、法令で印鑑証明書を付けるよう求められている書類に、外国人が署名した場合です。外国人の役員が署名する書類すべてに必要になるわけではありません。代表取締役が新たに就任するときに問題になるのは、主に就任承諾書・代表取締役を選んだ議事録・印鑑届書の3つです。
就任承諾書:取締役会があるかどうかで対象者が変わる
取締役会を置く会社では、印鑑証明書(または署名証明書)が必要になるのは、新たに就任する代表取締役の就任承諾書です(商業登記規則61条5項)。代表権のない取締役の就任承諾書には求められません。
取締役会を置かない会社では、新たに就任する取締役それぞれの就任承諾書に印鑑証明書が必要です(同条4項)。代表取締役でない外国人取締役も対象になるので、最初に会社の機関設計を確かめてください。
なお、同じ人が任期満了後に引き続き就任する重任(再任)の場合、就任承諾書への印鑑証明書は求められません(同条4項かっこ書)。証明が必要なのは新任のときです。
代表取締役を選んだ議事録:署名者によって要否が分かれる
代表取締役を選んだ取締役会の議事録には、出席した取締役と監査役の印鑑証明書が必要です(同条6項)。ただし、前任の代表取締役(取締役を兼ねる人に限ります)が、登記所に届け出ている印鑑を議事録に押していれば、この印鑑証明書は不要です。
前任の代表取締役が引き続き取締役として出席し、届出印を押せる場合は、議事録について署名証明書を用意する必要はありません。前任者が退任していて届出印を押せないときは、議事録に署名した外国人の取締役・監査役それぞれについて、議事録の署名の証明が必要になります(100号通達第2の2)。株主総会で代表取締役を選ぶ会社では、株主総会の議事録に署名した議長と出席取締役が対象です。
印鑑届書:会社の印鑑を届け出る場合
代表取締役が会社の印鑑(いわゆる代表者印)を登記所に届け出るときは、印鑑届書に本人の印鑑証明書を付けます(商業登記規則9条5項1号)。外国人が印鑑届書に署名した場合は、印鑑届書の署名についての本国官憲の証明書で代えられます(100号通達第1の2)。
印鑑の届出は、オンラインで登記を申請する場合は必須ではありません。一方、書面で申請する場合は、申請書や委任状に登記所へ届け出た印鑑を押すことになっています(商業登記規則35条の2)。外国人の代表取締役が印鑑を届け出ないまま登記を申請するときは、申請書か委任状の署名について本国官憲の証明が必要です(100号通達第1の2なお書き)。ほかに印鑑を届け出ている代表取締役がいて、その人が申請するのであれば、外国人の代表取締役が印鑑を届け出なくても登記は進められます。誰が代表者印を届け出るかも、署名する書類を決める段階で一緒に決めておきます。
| 書類 | 証明が必要になる人 | 証明が不要になる場面 |
|---|---|---|
| 就任承諾書 | 取締役会あり:新任の代表取締役 取締役会なし:新任の取締役それぞれ |
重任(再任)のとき |
| 代表取締役を選んだ議事録 | 取締役会で選定:出席した取締役・監査役 株主総会で選定:議長・出席した取締役 |
前任の代表取締役が届出印を押したとき |
| 印鑑届書 | 印鑑を届け出る代表取締役 | その代表取締役が印鑑を届け出ないとき(ほかの届出済みの代表取締役が申請する場合など。本人が届け出ずに申請するなら申請書または委任状の署名に証明が必要) |
署名証明書はどこで取る?国籍と居住国で決まる取得先
署名証明書は、原則として役員の国籍がある国(本国)の機関に作成してもらいます。本国の機関であれば、その機関が本国にあっても、日本や第三国にあってもかまいません。
原則は本国の機関(本国官憲)が作成した証明
外国人の署名について本国官憲の証明を求める扱いは以前からありました。ただ、本国以外の国にある本国の大使館・領事館の証明でもよいのか、本国の証明を取れないときに何で代えられるのかは、はっきり示されていませんでした。平成28年の通達とその改正(平成29年)で、使える取得先と、代わりの手段を使える条件が明確になりました(100号通達、法務省「外国人・海外居住者の方の商業・法人登記の手続について」)。
法務省の案内にならい、B国に住んでいるA国籍の役員を例にすると、使える証明は次のとおりです。
| 証明を作成する機関 | 例(B国在住のA国人) | 使えるか |
|---|---|---|
| 本国にある本国の機関 | A国にあるA国の行政機関 | 使える |
| 日本にある本国の機関 | 日本にあるA国の大使館・領事館 | 使える |
| 第三国にある本国の機関 | B国にあるA国の大使館・領事館 | 使える |
| 本国の公証人 | A国の公証人 | 使える |
| 住んでいる国の機関・公証人 | B国の行政機関・B国の公証人 | 本国の証明を取れない事情がある場合に限り、上申書を付けて使える |
| 日本の公証人 | 日本の公証役場 | 本国の証明を取れない事情がある場合に限り、上申書を付けて使える |
役員が本国に住んでいる場合(A国籍でA国在住)は、住んでいる国の公証人がそのまま本国の公証人にあたります。たとえば本国で公証人の証明を受ければ、それで足ります。
どの機関が実際に署名証明の手続きをしているか、予約や手数料がどうなっているかは、国や公館によって異なります。役員本人に、利用しやすい本国の機関(日本や住んでいる国にある大使館・領事館を含みます)へ問い合わせてもらうのが確実です。
住んでいる国の公証人の証明は使える?
本国以外の国に住んでいる役員の場合、住んでいる国の公証人の証明は、原則として使えません。使えるのは、本国の機関で証明を取れない「やむを得ない事情」があり、そのことを説明した上申書を付けたときです(100号通達第3)。
住んでいる国の公証人が手近だからといって、先に認証を受けてしまうと、本国の機関で取り直すことになるおそれがあります。本国以外の国に住んでいる役員には、まず本国の大使館・領事館で証明を取れるか確認してもらい、取れないと分かってから代わりの手段を検討する、という順番で進めます。
本国の証明が取れないときの代替手段
本国の機関で署名証明書を取れない「やむを得ない事情」がある場合は、上申書を付けたうえで、住んでいる国の機関・公証人、または日本の公証人の証明で代えられます(100号通達第3)。どんな場面が「やむを得ない事情」にあたるかは、平成29年2月10日民商第16号依命通知に具体例が示されています。
「やむを得ない事情」と認められる3つの場面
16号依命通知が挙げているのは、次の3つの場面です。
| 場面 | 例(B国在住のA国人) | 上申書に書く内容 |
|---|---|---|
| ① 本国に署名を証明する制度がない | A国の機関がそもそも署名証明書を発行していない | 本国の機関に確認したところ、発行していないと回答があったこと |
| ② 本国では取れるが、住んでいる国にある本国の公館では取れない | A国内では取れるが、B国にあるA国の大使館・領事館は扱っていない | B国にあるA国の公館に確認したところ、発行していないと回答があったこと |
| ③ 住んでいる国に本国の公館がない | B国にA国の大使館・領事館がない(近隣国の公館がB国も担当している場合を含む) | B国にA国の公館がないこと |
②の場面では、役員が本国に戻れば証明を取れる場合でも、やむを得ない事情があるものとして扱われます。証明を取るためだけに本国へ帰る必要はありません。
また、日本にいる外国人について、日本にある本国の大使館・領事館が署名証明書を発行していない場合や、日本に本国の公館がない場合も、やむを得ない事情として扱われます。この場合は、海外の本国の機関で証明を取れるときでも、上申書を付けて日本の公証人の証明で代えられます(16号依命通知2)。
上申書に書く内容
上申書は、通達では登記の申請書に押印すべき者が作成するとされています(100号通達第3)。役員本人が本国の機関に問い合わせた結果をもとに、登記を申請する側で用意します。
上申書に書く内容は、上の表のとおり、本国の機関に確認したところ発行していないと回答があったこと、または公館がないことで足ります。回答が電話だったかメールだったかなど、確認の方法までは求められていません。ただし、どの機関に、いつ確認したのかを具体的に書けるよう、役員本人には問い合わせた先と回答の内容を控えておいてもらいます。メールで回答をもらった場合は、そのメールを保存してもらいます。
認証を受ける前に整えること(準備の流れ)
署名証明書の取り方には2つの方法があります。役員本人に動いてもらう前に、どちらの方法で進めるかと、署名してもらう書類をそろえておくと、本人の手間を1回で済ませられます。
署名証明書は1通にまとめられる
1つは、就任承諾書・議事録・印鑑届書などに、公証人や大使館・領事館の前で署名し、それぞれの書面について証明を受ける方法です。この方法では、署名する書類の数だけ認証を受けることになり、書面の内容をあとで直すと、証明も取り直しになります。
もう1つは、就任承諾書などの書類には本人が署名だけをし、署名証明書は別に1通作成してもらう方法です。認証を受ける書類は署名証明書の1通で済みます。当事務所ではこの方法で進めています。この方法では、各書類の署名と署名証明書の署名が同じ人物のものであることを照合できるよう、本人にはすべての書類に同じ形の署名をしてもらいます。
オンラインでの公証による証明は使える?
原則として使えないと考えます。署名証明書は、その署名が本人のものであることを証明する書面です。本人が公証人や大使館・領事館の担当者と対面し、その目の前で紙に直筆で署名して、その場で認証を受けたものを用意します。
外国の公証人がオンラインで電子的に認証した証明書は、その電子証明書が日本の商業登記のオンライン申請で認められたものに当たらない場合、電子データのまま登記に添付することはできません(商業登記規則102条5項)。
また、電子的に作られた証明書を紙に印刷しただけでは、登記に使える署名証明書になるとは限りません。どの署名を証明したものか、原本として扱えるか、公証人の認証を確認できるかを見る必要があるためです。取得や印刷の前に、当事務所にご相談ください。
署名してもらう書類を先にそろえる
海外にいる役員に書類を送る前に、会社側で次の点を決めておきます。どれも、本人に署名してもらう書類の種類が変わる点です。
- 会社に取締役会があるか(就任承諾書が必要になる人が変わります)
- 新任か重任か、前任の代表取締役が届出印を押せるか(議事録に本人の署名が必要かどうかが変わります)
- 代表者印を登記所に届け出るか(印鑑届書に署名してもらうかどうかが変わります)
署名してもらう書類と署名証明書の原本は、本人から日本へ送ってもらいます。書類と証明書をまとめて送ってもらえば、やり取りは1往復で済みます。
氏名の表記と訳文をそろえる
外国人の役員の氏名は、登記ではカタカナで表記します。ただし、氏名を漢字で書く国・地域の人は、漢字で登記できます。就任承諾書・議事録・印鑑届書・署名証明書で氏名の表記がばらばらだと、同じ人物であることの確認に手間がかかります。パスポートの表記をもとに、登記に使う氏名の表記を最初に決め、すべての書面でそろえておきます。
外国語で作られた署名証明書を登記の申請書に付けるときは、原則としてその全文の日本語訳も付けます。ただし、一定の場合には訳文の一部を省略できます(法務省「商業登記の申請書に添付される外国語で作成された書面の翻訳について」)。
当事務所の解決事例
カナダに住むオーストラリア人が代表取締役に就任したケース
外資系の日本法人で、カナダに住むオーストラリア国籍の方が代表取締役に新しく就任しました。まずご本人に、カナダにあるオーストラリアの大使館・領事館で署名証明書を取れるか問い合わせてもらったところ、一般の文書の認証は行っていないという回答でした。本国では取れても、住んでいる国にある本国の公館では取れない場面(上の表の②)にあたるため、上申書を付け、カナダの公証人による署名証明書で申請しました。ほかにも代表取締役がいたため、この方の印鑑届はしていません。登記は無事に完了しました。
本国に住む外国人役員が代表取締役に就任したケース
国籍がある国にそのまま住んでいる外国人の役員が代表取締役に就任するケースでは、ご本人に本国の機関で署名証明書を取得してもらい、登記を申請しています。当事務所では同じようなケースを複数扱っており、いずれも登記は完了しています。住んでいる国と国籍が同じであれば、上申書は必要ありません。
よくある質問
- 外国人が代表取締役に就任する登記の必要書類は何ですか?
- 会社の機関設計や選び方によって変わります。日本で印鑑証明書を取れる外国人は、日本人の役員と同じく印鑑証明書で進められます。印鑑証明書を取れない新任の代表取締役については、就任承諾書と、印鑑証明書の代わりになる署名証明書が基本です。そのほか、代表取締役を選んだ取締役会や株主総会の議事録、代表者印を届け出る場合の印鑑届書、外国語の書面の日本語訳が必要になります。前任の代表取締役が届出印を押せない場合は、議事録に署名した外国人役員の署名証明書も必要です。
- 署名証明書(サイン証明書)は日本で取得できますか?
- 日本にある本国の大使館・領事館で取得できる場合があります。日本にある本国の公館も「本国官憲」にあたるため、その証明は登記に使えます。日本にある本国の公館が署名証明書を発行していない場合や、日本に本国の公館がない場合は、上申書を付けて日本の公証人の証明で代えられます。
- 署名証明書に有効期限はありますか?
- ありません。署名証明書について、作成後何か月以内といった有効期限は定められていません。
- 就任承諾書と印鑑届書で、同じ署名証明書を使えますか?
- 各書類には本人が署名だけをし、署名証明書を別に1通作成してもらう方法であれば、その1通で就任承諾書と印鑑届書の両方の署名を照合できます。書類ごとに署名して証明を受ける方法では、書類の数だけ認証が必要です。
外国人役員の就任登記のご相談
外国籍の代表取締役・取締役の就任登記について、会社の状況に合わせた必要書類の整理、役員ご本人にお願いする署名と署名証明書の取得先のご案内、上申書の作成、登記の申請まで対応しています。役員ご本人が認証を受ける前の段階からご相談いただくと、取り直しの手間を減らせます。在留資格の申請など、登記以外の手続きについては別途ご相談ください。
海外在住の方・遠方の方にもオンラインで対応しています
